▢「奇界遺産」について
奇界遺産 THE WONDERLAND'S HERITAGE
2010年1月20日発行
編著(写真・文):佐藤健寿
発行人:澤井聖一
アートディレクション&デザイン:古平正義
イラスト:漫☆画太郎
進行:柏女直美
印刷・製本:大日本印刷
発行所:株式会社エクスナレッジ
▢ 佐藤健寿(さとう・けんじ)
超常現象や世界の奇妙な現象を調査するサイトX51.ORG(http;//x51.org)を主宰、累計アクセス2億5千万を超え、様々なウェブアワードを受賞、2003年、エリア51で事故に遭ったのをきっかけに、UFOやUMA、ミステリー・スポットや奇妙な人・物・場所を追って、ヒマラヤ、南米、チベットなど実際に現地を訪れ、世界中を取材、現在はフォトグラファー/作家として雑誌等で活動。
著書「X51.ORG THE ODYSSEY」(講談社)、DVD「X51.FILES UFO in USA」が発売中。
▢ 掲載地域
奇態 UNUSUAL STATES
中洞組 ZHOUGDONG: CAVE VILLAGE
ブータンの男根魔除け図 PHALLUS OF DRUKPA KINLEY
ジープ島 JEEP ISLAND
セテニルとロンダ SETENIL & RONDA
ワカチナ HUCACHINA
諸葛八卦村 ZHUGE BAGUA VILLAGE
カピージャ・デル・モンテ CAPILLA DEL MONTE
クエラップとカラヒア遺跡 KUELAP & KARAJIA
メテオラ METEORA
モンサント MONSANTO
奇矯 WIRED PLACES
名山鬼城 GHOST CITY OF FENGDU
鹿港貝殻廟 SEASHELL TEMPLE OF LUGANG
キンタ・デ・レガレイラ QUINTA DE REGALEIRA
ワット・シェンクアンとワット・ケーク WAT XIENG KHUAN & WAT KEAK
ハウパーヴィラ HAW PAR VILLA
麻豆代天府 MADOU DAI TAIN FU
金剛宮 JINGANG TEMPLE
ティエラ・サンタ TIERRA SANTA
クカニロコ KUKANILOKO
ワッパーラックローイ WAT PAH LOK LOI
スイ・ティエン公園 SUOI TEN PARK
奇傑 ECCENTRIC PEOPLE
ジョン・ハッチンソン JOHN HUTCHINSON
サティア・サイ・ババ SATHYA SAI BABA
ヒラ・ラタン・マネク HIRA RATAN MANEK
フスト・ガジェンゴ・マルティネス JUSTO GALLEGO MARTINEZ
世界の果ての博物館 END OF THE WORLD MUSEUM
リプレー博物館 ROBERT RIPLEY'S BELIEVE IT OR NOT MUSEUM
三芝山頂寺貝殻廟 SEASHELL TEMPLE OF SANZHI
ココナッツ教団の島 ISLAND OF THE COCONU SECT
奇物 BIZARRE THINGS
楽山大仏 LESHAN GIANT BUDDHA
世界八大奇蹟館 MUSEUM OF EIGHT WONDERS OF THE WORLD
荊州博物館の2千年前のミイラ MUMMY OF JINGZHOU MUSEUM
モチェのエロ土器 EROTIC ARTIFACTS OF MOCHE
ミイラ博物館 MUSEUM OF MUMMY
アガスティアの葉 AGHASTIA'S LEAVES
デリーの錆びない鉄柱 IRON PILLAR OF DELHI
タ・プローム TA PROHM
奇習 ODD CUSTOMS
ビンロウ西施 BETEL NUT BEAUTY
シリラート病院法医学博物館 FORENSIC MEDICINE MUSEUM, SIRIRAJ HOSPITAL
ボリビアの忍者学校 NINJA DOJO OF BOLIVIA
サガダの懸棺 HANGING COFFINS OF SAGADA
サンフランシスコ教会の地下カタコンベ CATACOMB OF SAN FRANCISCO CHURCH
エヴォラの納骨堂 BONE CHAPEL OF EVORAS
イカ博物館の穿孔頭蓋骨 TREPANNED SKULL
奇怪 HIGH STRANGENESS
エリア51 AREA 51
ロズウェル ROSWELL
ファティマ FATIMA
ナスカの地上絵 NAZCA LINES
ナンマドール遺跡 NAM MADOL
三星堆遺跡 SANXINGDUI RUNS
アンティキティラの機械 THE ANTIKYTHERA MECHANISM
ヒマラヤのイエティの頭皮 SCALP OF YETI
イースター島 EASTER ISLAND
▷「奇界遺産」の感想
写真がメインのいわゆる写真集ではあるものの、書かれている文章が結構面白い。というより、載っている写真が奇抜すぎて、中には一体何なのか判断がつきかねるものも多く、説明を兼ねたその文章を読むことが重要であったというべきか。
ただ、あくまでも写真集であり、文章は二の次のところがあり、背景に負けていたり文字が小さすぎたりと、非常に読みづらい。それは予想以上のストレスとなった。
写真集といっても、文章がなければ成立しないと言っても過言ではないわけで、“見る”ことへの比重と同等なくらいに“読む”ことにも気を使ってほしかったというのが正直なところ。
この本の意図するところは序文を読めば明白だ。
─壁画、すなわち<芸術>であり<魔術=オカルト>の始まりであるそれは、その時点において、いわば<究極の無駄>であったに違いない。岩に絵を描き、槍で突いてみたところで、お腹が満たされたわけでもなく、むしろエネルギーの浪費にしかならないからだ。最初に岩に絵を描いて槍で熱心に突いていた奴は、多分、仲間内から狂(猿)人扱いされたはずである。しかし結果的には、この絵を描くという狂気じみた行動を通じて、狩猟の成功がただの運任せから期待を伴う予知的なものとなる。やがてそれがある段階で自然の因果と同調し、制度化したものが、祈りや儀式となった。その結果、このホモ・サピエンスは儀式を通じて未来を想像する力(ヴィジョン)を獲得し、安定した狩猟の成功や、自然の変化に対応することが出来たから、現代まで生き残ったというわけである。つまりはじめは<究極の無駄>として生まれた呪術的想像力こそが、他の動物たちを押しのけて、生存と進化へ向かう道を切り開いたというわけだ。─<序文より>ラスコーの壁画を生まれて初めて教科書などで見たときの記憶を思い出してみた。おそらく(もはや想像でしかないのだが)、子供心に理解不能だったと記憶する。何でこんなものが後々まで残されて、そして現代において教科書に載るほど貴重なものとなっているのか、全く理解できなかった(と思う)。
ここに掲載されてあるもの全てにおいて、似たような感情が湧き起こる。と同時に、それとは多少違った思いも伴っている。それは、遠い未来において現代人が築き上げた“遺産”としてどうにか残ってほしいという感情、そして愛おしさ─。
▷ 個人的に気になった場所
<ジープ島>かつて日本が統治していた土地は、大戦の後のアメリカ統治を経て独立し、そしてまたその地の一部が日本人がお金で購入しているという事実に、戦後日本の縮図を見た。
ミクロネシア連邦のチョーク環礁外れ、そこにまるで絵に描いたような「南の島」がある。名前はジープ島(旧名・婚島)。オーナーは何と、日本人の男性である。
チョーク諸島の内海には、かつて米軍の爆撃機で沈められた旧日本軍の戦闘機や戦艦が今もあちこちで沈んでいる。
<金剛宮>個々の展示物を見ると、いずれも興味をそそるものばかりなのだが、それらを包括的に眺めたとき、なぜかその地へ赴くことへの煩わしさが湧き起こる。節操のないその創造力に、おそらくとてつもない疲労感を感じてしまうに違いない。
台湾北部、三芝の山頂に発つ謎の道教寺である。台湾や中国の他の寺同様、神仏のミクスチャー具合が激しく、さらにスパイスとしてタイの仏教も加えられたごった煮的宗教施設となっている。入口にはまずアッパーな色彩の玉皇大帝像、その横にはギリギリでハリボテ化を免れた巨大な龍頭が並ぶ。こじんまりとした入口とは対照的に、中は意外と広大。通路にはカラフルな六十甲子神と呼ばれる道教の神様が万国神仏即売会のよう並べられている。一様にキッチュなマンガ面の神々に、いちいち突っ込みたくもなるが、奇をてらった様子はなく、その表情はあくまで天然である。そんな通路を歩くことしばらく、突然別次元の神が現れる。その名も甲子太歳金辮大将軍。蒸し風呂のごとく熱された寺の中で、逆光に照らし出されたその四次元的造形に、思わず卒倒しそうになった。常人の想像力のはるか彼方に屹立するそのご神体は、独創性と個性なんて言葉は超えて完全に自由だ。館内に他にも唐突な関羽像やド派手な寝仏、五百羅漢など多くの“山場”が作られているが、あの神様を見てしまったら、あとは何を見ても不感症である。ぐるっと回り終えて再び炎天下の外に出てみたが、やっぱり何の寺なのか分からなかった。蒸し風呂のような寺の中で見たあの四次元ゴッドは、やっぱり幻だったんだろうか。
<ティエラ・サンタ>なんといっても、モニュメンタルな「機械仕掛けのジーザス」が格好良すぎる。まるでホドロフスキーの映画「ホーリー・マウンテン」や「サンタ・サングレ」などの虚実が、現実世界に突如として現れたような印象がして、不思議な魅力で引き寄せられる。
仏教や道教をテーマにした愉快なテーマパークは数多く、本書でもいくつか取り上げている。しかし同じ宗教であるにもかかわらず、ことキリスト教徒なるといまいち「笑い」にしてはいけないシリアスなムードが漂うのは、ひとえにイエスという世界最大のヒロイックな存在のせいだろう。ところがアルゼンチン、ブエノスアイレスの外れに、この「イエス×エンターテイメント」を実現した、神をも畏れぬテーマパークがある。その名もずばり「聖地」を意味する、ティエラ・サンタ。ティエラ・サンタは広大な敷地の中に、イエスの生涯や聖書にまつわる逸話を、等身大の人形で見事に実現。これらの人形は少なからずキッチュな趣もあるものの、一応真面目な作りであり、人形を前に思わず涙を流している観光客もしばしば。しかし目玉はなんといっても、敷地内中央にある、高さ18mを超える「機械仕掛けのジーザス」である。開園中は30分ごと、神々しいゴスペルに被さるギリギリというモーター音とともに、岩場の中からゆっくりとイエスが姿を現す.ダンダン頭が見えてくるその様子は完全に発射台のロケットである。岩場も、ヤシの木も、キリスト自体も、完成度はどう見てもチープl。さすがに私が噴き出しそうになって隣を見ると、どっこいおばちゃんたちは涙を流しているじゃないかどんな真面目な教会や聖堂でもない、こんな所だからこそ、宗教観の違いというものをまざまざと痛感したのであった。
<ワッパーラックローイ>造られた経緯がテーマパークとは全く違っていることもあってか、奇抜でありながら不思議とその地に溶け込んでいる印象がする。そして、ガイコツとか地獄とか恐怖系の展示物も何だか愛嬌を感じてしまうところが非常にいい。
アジアには、俗に珍寺などと呼ばれるユニークな寺が多いが、ことタイは、元来のファンシーな国柄ゆえ、アジアでもぶっちぎりの珍寺の宝庫だ。そしてそんな強豪ひしめくタイのなかでもおそらく最強の珍寺が、このワッパーラックローイである。ワッパーラックローイはバンコクの北約300㎞、ノーンタイと呼ばれる町の外れにある。1991年(タイ歴2534年)、元は何も無かった野原に身一つで訪れた現住職が入植し、地元民からの寄進を少しずつ集めながら、弟子達とともにコツコツとこの驚異の寺を作り上げたというのだ。1000体を超える膨大な石像たちが埋め尽くすその境内はまさにカオス。寺の名を借りたモンスター・パラダイスとでも言うべき、壮絶なコンクリート・ジャングルがそこにある。伝道で仏像が回転しながら、ゲーム形式でコインをトスさせるアグレッシブな賽銭回収マシンから、ときに住職の念仏をかき消すほど激しい咆哮を上げる巨大恐竜まで。ノー・リミットで暴走する住職の想像力を具現化した、一大仏教ギャラクシーが繰り広げられている。一応誤解なきよう言っておけば、個々の本堂はあくまで真面目な仏教寺である。ただ宗教に関する表現力が、我々よりちょっとばかり自由すぎるだけなのだ。
<スイ・ティエン公園>表紙を飾るこの印象的な彫像(?)は、プールの水が涸れたとしても“遺跡”として残っていくような予感がする。
高さ70mの国王像が見守るアジア最強のテーマパーク
ホーチミン郊外の広大な敷地に建てられたスイ・ティエン公園は、アジア、いやおそらく世界でも最強クラスのテーマパークである。ベトナム建国の神話をベースにした園内は、一言でいえば狂ったディズニーランド。可愛らしいネズミたちの代わりに、四聖獣(鳳凰・玄武・麒麟・龍)を中心とした巨大な怪物たちが、106ヘクタール見下ろす、極彩色のプール。高さ70m超の国王象、両脇に配置された龍やら怪魚の作り込みには、製作者の狂気じみた想像力が刻み込まれている。他にはジェットコースターや観覧車はもちろん、奥にはお寺や、1500頭以上のワニを仕込んだ「ワニ王国」なる釣り堀もある(肉をつけた釣り竿でワニを一本釣り)。したがって、ワニを釣った後にウォータースライダーを滑ってから最後にお寺に参拝、なんていうクレイジーな行動も余裕でカバー。ここまでやりきると、むしろ格好よくすら見えてくるから不思議である。そもそも民族起源というディープなテーマを、エンターテイメントとして昇華させるなんてことは、なかなかできることじゃない。舶来のお仕着せファンタジーでないナショナリズム全開の土着神話的遊園地。広くて濃すぎる国内を一巡とした頃には、なぜか虜になってしまうはず。
<世界の果て博物館>チリのドキュメンタリスト、パトリシオ・グスマン監督の映画「真珠のボタン」を見て、そこにパタゴニアの先住民が登場していたので、それに関連して興味を持った。
世界の果ての地に存在した、謎多き民族ヤマナ
摂氏零度以下の暴風が吹き荒れる極寒パタゴニア。その南端に位置するフエゴ島に、今は失われたヤマナという謎多き民族が存在した。ヤマナの人々が西洋人に“発見”されたのは1826年。かのダーウインを乗せたビーグル号である。一行はそこでヤマナの子供4人を誘拐し、英国へ連れ帰って“教育”を施した。そして3年後、彼らを通訳に仕立てて宣教活動や“啓蒙”を行ったが失敗、ヤマナとの間に戦争が生じてしまった。しかしその後、英国の冒険家が単独で接触、同じように裸で過ごし、はじめて彼らの本当の姿を記録した。曰く、「ヤマナは人口3000人程で、定住せず、遊牧民族のように暮らす。服を着る習慣がなく、寒さしのぎにクジラの脂を体に塗る。特定の統治者はなく、複数の家族で共同体を形成し、収穫物は平等に分配する。海は女性に属するとされ、争いの際には女性シャーマンが最終決定権を持つ」。結局、ヤマナの人々は英国人が“啓蒙”とともにもたらした伝染病によって激減し、21世紀に至る前にその地は完全の途絶えてしまった(最後の純ヤマナ人は1999年に死亡)。現在、世界最南端の町ウシュアイアにある「世界の果て博物館」には、ヤマナ族の数少ない記録が展示されている。何かを威嚇するその異様な姿は、文明社会への強烈なアンチテーゼにも見えるのだった。
<イカ博物館の穿孔頭蓋骨>この頭蓋骨からどれほどの創造物が生まれていることだろう。遺産というものは、単なる観賞物に留まるものではなく、先人の遺したものに知的好奇心を掻き立てられると一面を、改めて垣間見た。
古代インカのワイルドな脳外科手術
ペルー南部のイカは、リマから地上絵のあるナスカへと向かう道中にある、旅行者も少ないうら寂しい雰囲気の街である。しかし街の外れに、通り過ぎるにはもったいないほどパンチの効いたイカ博物館がある。中に入ると目に飛び込むのは、陳列された膨大な頭蓋骨。しかしよく見ると、そのいずれもがどこか異常。ラグビーボール形の頭蓋骨。これは古代、人々が信奉した天空の神に似せて矯正したといわれるが、どう見てもエイリアンである。他にはぽっかりと大きな穴があいた頭蓋骨もある。これらは長らく悪霊払いのために行われた魔術的行為の犠牲者と信じられてきた。しかし最近の研究により、アンデスの人々はこれを現代と変わらない医療目的の脳外科手術として行っていたことが明らかになったという。この手術はトレバエーション(頭蓋穿孔)と呼ばれ、紀元前1000年頃からはじまった。発見された頭蓋骨の孔の縁が治癒していることから、手術は90%以上の確率で成功し、患者は術後も長く生存していたことが分かっている。現在ですら難しいとされる脳外科手術。患者の根性が凄いのか、医師の技術が凄いか分からないが、かなりワイルドな手術だったことは想像に難しくない。いまだ謎多き、失われた超古代医療技術なのである。
世界遺産を絶対視する人にはおすすめしない写真集ではあるけれども、見れば必ず何かを刺激されることは間違いない。ただ、「奇界遺産パート2